Headphone Junky

歴だけはそこそこあるホムシアオーマニの偏ったお話

もうひとつの極北、SR-007Aを入手する。

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さてSR-007Aだ。
STAX用の社外アンプ、KGSSHV CARBONを購入するとき、ほぼ同時に購入していた。

併売されている上位機、SR-009Sがあるのになぜ?と思われるかたも多いだろう。ぼくも半分そう思っていた。
ネットでの評判をみると、SR-009が発売された際、手元で聞き比べして、結果SR-007Aを残したと書いておられるかたが居られた。
音の評価を見ても、どうもSR-007AとSR-009では音の傾向がまったく違うというレビューが多いようだ。
決め手は、鳴らしにくいという噂のSR-007Aが、SR-007AはKGSSHV CARBONでやっと鳴りきったと海外サイトの書き込みで読んだことである。
CARBONが手に入る。鳴らしきったSR-007Aを聞いてみたいと考えるのが人情ではないだろうか。

ヘッドホンを追加した言い訳はここまで。音質について書いてみよう。
まず音色の色数が多い。
SR-009S、JADE2は個人的に色が薄く、よく言えば反応が速くキレがあると言えるだろう。悪く言えば薄く、現実感のない音と言えば理解いただけるだろうか。
この2機種ともに、音の輪郭は自然だが、厚みが少なく質量を感じない音のように思う。
SR-007Aはこの点が大きく違うと思う。輪郭は圧倒的に自然なのは静電型独特。そこに質量や現実感、音色の妥当さが乗っていると思う。
静電型の弱点として良く言われるのが低域が薄く重量感が感じられないということだ。
この点、SR-007Aの一般的な評価としては同じように曖昧で軽い低音だろうとの評価を目にすることが多い。低音の量に関しては、他の静電型ヘッドホンよりも多いとの評価も散見する。

CARBONで鳴らすSR-007Aの低音は素晴らしい。厚み、質量、スピード感、自然さ。どれをとっても最高に感じる。ネットで見るネガティブな要素はぼくは個人的に感じない。
低音以外も、高域の輪郭は限りなく自然で中音、特にボーカルの艶や厚みに関しては個人的にはなにも言うことはない。

強いて言えば、音場が狭いような気もするが、これはアンプ側のCARBONの問題だろう。
なぜなら、広大な音場を誇るJADE2、移動感が素晴らしいSR-009SでさえCARBONで鳴らすと、移動感自体はあるものの音場は狭く感じるのだから。
反対に、SR-009SをCARBONで鳴らすと、音場も狭くなる上キツい音も出てくる。

とりあえず、CARBONで鳴らすSR-007Aの、音色に関しては、ぼくは文句の付けようがないのだ。

STAXを鳴らし切る!CARBON参上!

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前回の記事に書いた通り、イシノラボの特注STAX用アンプの音が、どう工夫しても好みではなかった。
そのとき、運良くか悪くかはわからないが、某オークションで、激レアのSTAX用アンプ、KGSTと、 KGSSHV CARBONの出品を発見した。
どちらも中身の基盤は、海外の設計者が自作者用に配布しているもので、出品は、その基盤を使った完成品だ。海外では、STAX純正のアンプをよしとせず、社外品のアンプで鳴らすかたも多いようだ。
海外のこの機種のレビューを読むと、同じようなSTAX用社外アンプ、BHSEと音色の傾向は違うものの、ほぼ同クラスという定評のようだ。
前述の2機種の違いはと言うと、出力に真空管を使うKGST、半導体を使うKGSSHV CARBONといったところだ。

個人的には、次の機器更新はDACと考えていた。その資金を回せば予算的にはなんとかなりそうだ。
もともと海外の自作用基盤だ。完成品など滅多にお目にかかれないだろう。ぼく自身自作方面の自信は全くない。

KGSTのほうが先にオークションが終了する。
ただ、イシノラボの真空管式のアンプが好みでなかったのが気持ちの中で引っかかっている。
とりあえず入札はしたが、気持ちの上で本命はCARBONだ。

案の定KGSTは逃した。
CARBONはうまい具合に落札することができた。
落札、入金後、すぐにCARBONはうちにやってきた。簡易ではあるが厳重な梱包で傷ひとつない。箱から出してラックに置く。
重い。
これが第一印象だ。ヘッドホン中心にしはじめてから、手持ちは小型の機器が増えた。ひさびさのフルサイズだ。

海外の基盤がベースなためか、入力電圧の切り替えが選択可能だが、出品者のほうで100vに設定いただいていた。ありがたい。

STAX使いの先達から、社外アンプに繋いだSTAXのヘッドホンは保証がきかないと聞いていた。いきなり高額なSR-009sを繋ぐ気にはならない。

まず最初はJADE2を繋いだ。ボリュームを上げる。
一音目から素晴らしい。
JADE2はどちらかと言うと反応が速く、情報量が多い。代わりに若干の深みが出にくいと感じていた。
その深みが出るのだ。
かと言ってJADE2の長所の、反応の速さが犠牲になっているようにも感じない。
これはイケる。
気になるのは音場だ。JADE2は広々とした音場も特徴のひとつだが、それが若干せばまったようにも聞こえる。
音色的には好みの方向なので、悩みどころか。

2、3日は、CARBONにJADE2で聞いていた。JADE2で音が良くなるなら、SR-009sではどうか。まあ壊れても自己責任だ。
ぼくはCARBONにSR-009sをつないだ。

すばらしく情報量が増えたように聞こえた。
音が速く聞こえる。音が曖昧にならず、すべての音が分離して聞こえるようだ。特筆するべきは低音だろう。他のアンプ、とは言えJADE2用のアンプと、イシノラボの真空管アンプしか他にはないのだからあてにはならないが、低音が締まって聞こえる。高音や中音と等価。スピード感が揃い他のアンプで聞いているときは、若干遅れていたのかもと考えさせられた。
良いことばかりではない。
CARBONは駆動力があるからなのか、SR-009sに接続すると曖昧さがなくなる。具体的に言うと余韻や響きが減る。音がスパッとはじまりスパッと終わるということなのだろう。キツく感じることも多い。
お前は、音を聞くのか、音楽を聞くのか。
ぼくはCARBONに、問われている気がした。

イシノラボ製真空管ヘッドホンアンプ届く!

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さて、やっとイシノラボから特注のヘッドホンアンプが届いた。
本当なら、もっと前に入手できるはずだったのだが、最終オーダーのメールが不達で、納期が10日ほど延びたり、アンプ到着後も、手持ちのヘッドホンのインピーダンスが低過ぎ、クリップし、メーカーに出戻るなどの、思いがけないトラブルが続いた。

特に手持ちの中でもETHER Cと、972PROでは問題は完全には解決しなかった。
今まではそんなに鳴らしにくいとは考えてなかったのだが仕方ない。
静電型のヘッドホンとダイナミックタイプのヘッドホンでは使うアンプの端子が違う。それぞれ違うアンプを使うことになる。繋ぎかえが面倒なので、STAX用のアンプと、通常タイプのヘッドホンアンプを共用できればと考えていたのだが、手持ちのヘッドホンに使えないものがあるのは想定外だった。
なかなか頭の痛い話だ。

アンプの話に戻ろう。
昨今の電子部品不足のせいも有ってか、現在トランスが入手不可能だそうだ。
今回はバランス接続用とアンバランス接続用にそれぞれ別に使ってもらう予定で話を進めていた。
トランスの入荷を待つ手もあったが、イシノラボさんより、手持ちの中古トランスを使用する提案を受けた。
価格もその分お安くしていただけるとのことだった。
納期のこともある。ぼくはふたつ返事でお願いすることにしたのだ。

到着したアンプは、ケースが樹脂製ということで安っぽく、正直がっかりした。複数のトランスを使用していることもあり、ケースの割には重量感がある。まあ、実質主義といえないこともない。

電源を取ってピンケーブルを接続する。電源を入れる。まったくの新品だ。しばらくは通電しておく必要があるだろう。

さあ音出しだ。もちろん一番興味があるのは、STAXの009Sを繋いだときにどんなふうに鳴るのか、だ。
小一時間通電していたアンプの電源を一旦落とし、ヘッドホンを接続、もう一度電源を入れる。
ヘッドホンを耳に当てると、小さなノイズが聞こえる。
電源かRCAケーブルからのノイズだろうかといろいろと探ってみたが、結局症状は変わらない。
まあ真空管式を選んだ時点でS/Nはあきらめている部分もある。

気を取り直してボリュームを上げる。
音楽が流れはじめる。この時点で、ノイズはまったく気にならなくなった。

ヘッドホンから、最近お気に入りのインストロックが流れはじめた。
ツインギター、ベース、ドラムの3ピース構成だ。
まずギターの音だ。以前のアンプ、HIFIMANのJADE2アンプで聞く音と比べると、響きが多く弦の太さが太くなったように聞こえる。
音の色数が増え、手垢のつきまくった表現だが、油絵のような、と言いたくもなる。
JADE2アンプで聞いていたときにはギター2本、ベース、ドラムの出どころがハッキリと、そしてコンパクトで立体的に把握できていたのが、イシノラボアンプで聞くと、定位や奥行きはそれなりにはっきりしているものの、それぞれの音の像が大きく、かなり混み合う印象だ。
演奏を俯瞰して聞く、というよりも、演奏の中に放り込まれたように感じる。

これで解像度が低く、ボケた音だったら使い途に困るところだ。
このアンプの面白いところは、解像度、情報量共にJADE2アンプよりも明らかに上回るところだろう。
比較すると、特に最低域はJADE2アンプではかなりカットオフされていただろうことがわかる。
ただ、その低域の制動がイシノラボアンプはゆるいのだ。膨らむだけなら個性ですむのだが、最低域が入るとその低音が割れることになる。
また、当然他の帯域にも影響を与えることになる。途端に全体の解像度が悪くなる印象だ。

イシノラボのアンプをオーダーしてひと月半。待っただけに、なんとかメインのアンプとして使おうと、脚元に始まり、電源ケーブルRCAケーブル等々。
エージングも進んで、多少マシにはなったけれど、上に書いたような個性はなくなりませんでした。
このアンプの個性は、色付けとして、適するソースを楽しむならいいのだろうけど、リファレンスとしていろんな機器の個性を発揮させることはなかなか難しいのかもな、と思いはじめているところだ。

STAX SR-009S レビューの巻

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前回の記事の結果、結局STAXを買うことにした。
音の好みが似ている知人が、最近STAXのSR-009を購入、いたく満足されていることにも背中を押された。

SR-009の中古相場を調べると、21万〜23万円が、標準的な相場だろうか。
ヤフオクで保証なし、ショップが販売するものでも程度が悪いものは20万を切ることもあるようだが、できればそれなりに程度の良いものが欲しい。
安くとも、程度が悪いものに当たるとテンションは上がらないように思う。まあ、当たり前かもしれないが。
個人的には、入手困難なもので完動品なら、程度が多少悪くても購入対象になる。良くも悪くもSR-009は球数が多い。ましてや製造年度も幅広く、外観がキレイでも古いものも少なくない。あまりに安いものに飛びつくのは正直怖い。

そんなこんなを考えながらネットショップをさまよっていると、スプリングセールでSR-009の後継機種、SR-009Sの中古品が特価になっているお店があるのを発見した。
SR-009Sだが、Sが付くだけで、もともとの中古価格は30万円近い。
SR-009からSR-009Sの間で、定価が約10万円上がったのに伴って、中古価格の相場も、S付きの場合、30万円前後と上がっているのだ。
その個体は、その相場よりも5万円は安い。
ぼくは、STAXを買うならアンプもセットと考えていたので、予算的に009S購入は想定していなかった。
これならなんとかなりそうだ。
009Sなら、発売されたのが2018年だ。経年劣化も比較的安心できるだろう。
もちろん、ショップ購入で、ジャンク品でもない。半年の保証も付く。
迷いがないと言えば嘘になるが、ぼくが見つけたのが丁度セール最終日。これも運命かと思い、購入することにした。

そうなると次に問題になるのは、そのSR-009Sを駆動するためのアンプだ。STAXではドライバーと呼ばれる。
通常のヘッドホン端子ではSTAXのヘッドホンは動作しない。専用のアンプ=ドライバーと接続する必要がある。
以前SR-L700を使っていたときのドライバーはすでに手元にない。
手持ちのHIFIMAN JADE2のアンプの規格はSTAXと共通だから、とりあえず仮で使うには使えるが、SR-009Sは JADE2よりも格上だろう。ドライバーもグレードアップしたい。
予算を考えると、中古のSRM-007TAか、SRM-727Aがよいだろうか。
ただ、SRM-007TAは試聴したことがあるが個人的にはあまり好みではない。
SRM-727Aは一度手放したので、同じものをもう一度購入するのはしゃくにさわる。
つらつらと考えながらドライバーの評判を検索する。
ひとつのサイトで、スクロールするぼくの手が止まった。
それはSTAX純正のドライバーから、社外ドライバーに買い替えたかたのレビュー記事だった。
そうか、社外品という手があったか。
もちろんSTAXのドライバーに、社外品があるのは知っていた。ぼくが持っているJADE2のアンプもそのひとつだろう。有名なところではブルーハワイ(BHSE)がある。ただ、海外のメーカーのものはおしなべて高い。
そちらのサイトのかたが購入されていたのは国産で、イシノラボというガレージメーカー製だった。

イシノラボについては以前から興味があった。
現在気に入って使っているプリ、パワーの製作者とイシノラボさんは懇意で、昔は設計のみ現在の製作者さんが行い、実際の製作は、イシノラボに委託していたそうだ。
それなら信頼できそうだ。
ぼくはイシノラボに、SR-009S用のドライバーの製作をおねがいすることにした。
すぐに返事があった。
ドライバーは、受注生産ということで、納期がひと月以上掛かるそうだ。
SR-009Sを発注する前に発注したが、この記事を書いている今もまだ完成していない。

話を、中古購入したSTAX SR-009Sに戻そう。

到着したSR-009Sの外観は、美品とまでは言わないが、それなりに満足のゆくものだった。革製のヘッドバンドに経年のための皺があるが、ハウジングは綺麗だ。イヤーパッドも艶こそ減退しているが、個人的には所有欲が減退するほどではない。

とりあえず手持ちのJADE2のアンプに接続して聞いてみる。
出てきた一音目でやられた。
良い。
引き込まれるように聞き続けることになった。
美音である。
個人的にはこの出音がハイファイとは言いがたい。この音は、ある種の意図を持って作り込まれた音なのではないだろうか。そうでなければ出ない音な気がする。
しかしだ。
次から次へと曲を掛け替え聞き続ける。冷静に聞くことを許されない。
ぼくはひさびさにそんな経験をしたような気がする。

2、3日、音は良くなり続けた。

音についてすこし書こう。
同じ静電型と言っても、HIFIMAN JADE2や SONOMA MODEL ONEとはまったく違う音に聞こえる。
まあ、静電型特有の、音の揃いや、低域のスピード感は3機種ともに共通する美点と言えるのかもしれない。それを踏まえた上でそれぞれについて書いてみたい。

JADE2は明るくさわやかな音と形容すれば伝わるだろうか。音の定位は四方八方に距離を取って定位する。このぐるりと音に包囲される感覚が楽しい。
レンジは他の2機種に比べて狭いが、聴かせ方がうまいのか個人的にはそんなに気にならない。
単体で聞いている間は気にならないが、他機種を聞いた直後に聞くと音色の数が少なく、若干単調に聞こえる。
解像度や情報量もそれなりにあるのだろうが、この音色の数のせいで好き嫌いは分かれそうだ。

MODEL ONEはひと言で言い表すとすればハイファイ調、だろうか。
JADE2のように全方位に定位する印象はあまりないが、音の位置を確認しようと意識を向けると全ての音がきちんと定位しているように聞こえる。
制動がよく、音像がコンパクトなことが幸いしているのか、音は近いが見通しは良い。
音色の数は多く、楽器それぞれの質感を描けているように思う。
声についても滑らかで、男声女声、いろんな人、それぞれの声質の描き分けもすばらしい。

特筆すべきは低音だ。
量感は控えめだが、低音の実音と、その響きまで分離して聞こえる。
やはり、手持ちの機種の中で、一番正しい音を聞かせてくれるのはMODEL ONEなのかもしれない。
SR-009Sを持ってしてもその部分に関しては確信を強くした。

それならSR-009Sを入れた意味は無いのか。と、問われるかもしれない。
とんでもない。
現在、一番出番が多いのがSR-009Sだ。
高音から低音までレンジ感にすぐれ、音像はMODEL ONEと比べると若干大きいが、楽器までの距離や前後左右の移動感もうまく表現してくれる。
制動に関しては引き締まっているとは言いにくいが、反対にそこが、イヤミにならないくらいの響きを付加し、聞き心地の良さにつなげているように思う。

まあ、分析的に書こうとしてはみたが、そんなことはどうでもいい。
何はともあれ、寝る間も惜しんでヘッドホンにかじりつくなんてことは、数年ぶりのことなのだから。

 

次の一手

さて、次の一手をどうするか。
こんな風に考えるようになったらオーディオ趣味も末期だ。
いま出ている音に、特に不満があるわけでもないのにアップグレードを考えるのだから手に負えない。
年末からしばらく、仕事で身動きの取れない状態が続いていた。
なにかご褒美じゃあないけれど、趣味のためにはたらいているのだから、なにか買ってもよいだろう。
試聴に行く時間もないので、ネット検索して、レビューを読んだり、恥ずかしげもなくフォローしているだけの、自分が興味がある機器の所有者さまがたにDMを送ったり。
ええ、もうなんなら聞かずに買ってしまうことよ、と開き直り、機器の選定にいそしんでいた。予算は40万円前後まで。
候補は、

MEZE EMPYREAN
MEZE ELITE
STAX SR-009
STAX SR-009S
FINAL D8000
HIFIMAN HE1000SE
HIFIMAN SHANGRI-RA Jr(ヘッドホンのみ)

あたりだろうか。
その前に手持ちを整理しておこう。

静電型が、
HIFIMAN JADE2
SONOMA MODEL ONE

平面型が、
LSA HP-1
ORIGINAL VOICE 972PRO
MR.SPEAKERS ETHER C

いわゆるダイナミック型は、
ZMF AUTEUR

以上の6機種だ。
最近、個人的には音場に興味が行っている。
特に頭の周りを包囲するように前後左右に音が定位するのが楽しいと感じている。

手持ちの6機種のなかで、それがうまいのはJADE2とHP-1だ。

JADE2は手持ちの中では安価で音も独特の脚色はあるが、軽くかけ心地が良い。包囲感も抜群なため、出番は案外多い。
HP-1のほうは、木製のハウジングのせいか、音が少し暗く出番は少ない。
包囲感は素晴らしいのだがそこがなぁ、と聞くたびに思っていた。
それがリケーブルで一皮剥けたのだ。
といっても大したことではない。KENNELTONE系(手持ちのHP-1も含む)と、ZMF系(手持ちはAUTEUR)はケーブルの端子が共通なのだが、そのケーブルを、それぞれ別の機種に接続してみることにしただけのことだ。

それだけでHP-1が一皮剥けた。
暗く、木質の単調に感じられる音色が色彩感豊かに包囲してくれるようになった。
一方、HP-1のケーブルを接続したAUTEURも、少し音像のフォーカスがボケるような気はするが、柔らかい音で包み込むように変化した。
ケーブル交換で、音色が単調になるのを危惧していたが、AUTEURの場合、そこは大丈夫なようだ。

手持ちのヘッドホンでこれだけ遊べるのだから、オーディオは楽しい。

閑話休題
ヘッドホン購入の話に戻ろう。
仕事が少し落ち着き、なんとか時間が取れるかなぁと思い出したころ、やっと蔓延防止が明けた。
ぼくは試聴に行くことにした。
ターゲットは上記の機種たちだ。どの機種もそれなりの価格だ。どの機種も評判がよく、試聴せずに買ってもいいのかもしれないが、試聴できるのならしたほうがいいだろう。
いつも試聴に行く某店で聞けたのは3機種、EMPYREAN、ELITE、D8000だ。
まずEMPYREANを聞く。
EMPYREANは、ELITEが出てフラッグシップではなくなった。それが理由か、中古も豊富で値頃感が出てきている。今回試聴できた機種のなかでは一番安価に入手できるだろう。

そんなことを思いながら頭にかぶる。
まず装着感がよい。これなら疲れずに長時間聞けるだろう。
肝心の音だ。
音色の色数は非常に多く、少し暖色に寄っている気はするが心地よい。音場も広く、音像の定位もよい。
ぼくはカリカリの輪郭のついた音が苦手だが、そのあたりも秀逸で、情報量や解像度もそれなりにあるのに、まったくキツくは感じない。
低域は少し曖昧に聞こえる気もするが、低域はアンプ次第なところもある。
個人的に低域は、どちらかというと重視していないこともあり、気にはならないだろう。
ふむ、いいな。
ちょうどこの店にも中古品が出ている。これで済んだら安く上がる。

次はEMPYREANの上位機種、ELITEだ。この機種なら、まだ発売されたばかりということで買うなら新品しかない。
被る。
EMPYREANと同一メーカーのせいか装着感の差は、あまり感じない。
さて音だ。
EMPYREANと傾向は似ているが、クオリティがまったく違う。
音場が広く音像の定位が良いところは同じだが、その音像のフォーカスがまったく違って聞こえる。音が手でつかめそうだ。
ELITEと比較するとEMPYREANの音像はすこしボケて肥大しているように感じてしまう。
ELITEで聞くボーカルの口元は小さく、楽器もそれぞれの場所にカッチリと整列しているようだ。
EMPYREANからの変化が一番大きいのが低域だ。量感は減るが、曖昧だった音階が解像度を伴って正確に出ている気がする。
EMPYREANより、全域でだいぶいい。

ただ、値段が値段だ。中古のEMPYREANと比較すると新品のELITEは約2倍の価格だ。
完全な予算オーバー、中古が出るのを気長に待つことになる。
聞かなけりゃよかった。

最後にD8000だ。
まず被る前に手に持つだけでその手に重量を感じる。重い。そしてデザインがゴツい。個人的には嫌いではないが。
被る。
むう、重い。長く聞いてると首がやられそうだ。
とりあえず音だ、音。この重さで音が悪かったら無いわ。
いや、D8000すごい。
ネットに落ちてるD8000のレビューでは、音場が狭いという人と、広いという人が混在しているが、これは標準的だろう。
解像度、情報量ともに今まで聞いたことないレベルで高い。そしてかなりカッチリと音像が決まる。そしてその音像が軽くないのだ。すべての音に重量が乗ってきている気がする。
にも関わらず、平面駆動のせいか当たりがしなやかで、耳に痛くない。
低域に関しては巷の評判通り、多い。
多いのだが、なぜだろう、その多い低域が邪魔に感じない。キチンと解像度を伴っているからだろうか。理由はハッキリとは分からないが、これはハマる。
D8000なら中古がある。EMPYREANより少し高いくらいか。充分予算内におさまる。
重量のせいで装着感に難はあるが、聞いた3機種のなかでは一番音は好みだ。

ただ、ここまで試聴してきたが、少し違和感も感じてきた。
どうも、この3機種は平面駆動型でいわゆる音のスピード感は速いも言われている方式だ。
家で聞いているJADE2の方が、音の出方だけで言えばさらに速く、自然に聞こえる気がする。
もちろん、情報量、解像度、音色の豊富さはJADE2とは比べ物にならないくらい3機種とも良いのだが。

迷った末に、この日は決めずに家に帰った。
冷静な頭で判断しようと、家でもう一度手持ちを聞く。
やはり、試聴してきた3機種ではJADE2のスピード感は出ないようだ。
SONOMAも遜色ない。
手持ちの平面駆動とダイナミック型が特に遅いとは感じないが、もしかするとこのスピード感は静電型特有のものなのかもしれない。

そして驚いたことに、ケーブルを交換したHP-1の音は、低音の速度こそ静電型には劣るものの、情報量、解像度、定位感など、全体的にはD8000に迫っているように聞こえる。
もちろん、自宅ではアンプやDAC、それらに接続に使用するケーブルやアースに至るまで自分好みに追い込んでいるので、店頭で聞いただけのD8000にとってはフェアではないだろう。
しかし、苦労して貯めた数十万を払って購入する気がなくなってしまったのは事実だ。

さあ、なら、どうする。静電型ならSTAXか。
HIFIMANのshangri-la jrもあるが、アンプセットだと約100万円。
100万円あればプロジェクター買い換えるわ。
というのが正直な気持ちだ。
現実的に考えるならSTAX一択か。新フラッグシップが出たせいか、この間まで最上級機だったSR-009やSR-009Sの中古品をネットショップやオークションで見ることがかなり多く、これらならアンプセットでも予算内で選択肢はいろいろある。
そういえば、友人の友人、まあ顔は見たことがあるくらいの知人が、STAXのSR-009を持っていると聞いたことがある。
友人に連絡をつけると、中立ちをしてくれるそうだ。ありがたい。

で、結局彼がその知人から、SR-009をアンプとセットで借りてきてくれた。
アンプはSRM-007TA真空管式のハイグレードタイプのものだ。
接続し、電源を入れてしばらく待ち、音出し。
以前ヨドバシで試聴した時の思い出が頭によぎる。
個人的には柔らかい音は好きなのだが今聞いている音は柔らかいが滑らかさに欠けるように聞こえる。
低域から高域まで、音のスピード感に関してはやはり平面駆動型よりもかなり速く感じる。
そして音が揃っている気がする。
自宅で聞いたL700とSRM-727Aよりも音場は広く、押し付けがましさもなく、そのあたりは好印象だ。
悩みながら1時間ほど聞いていただろうか。
真空管式のアンプということで温まれば印象が変わるか、とも思っていたがこの時点では多少良くなった程度。
普段、帰宅、夕食、入浴後に聞く時間を考えると、これ以上暖気に時間が掛かるのでは運用はむずかしいだろう。
ただ、L700の印象からして、アンプを換えればまだ好みになる可能性は充分にあるとも思う。
やはり静電型か。
とりあえずぼくは、手に持ったスマホの検索窓に、「STAX SR-009 中古」と打ち込んだ。

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香り高い?ZMF AUTEUR試聴記

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昨年末に届いたもうひとつのヘッドホンがZMF AUTEURだ。

 

以前の記事にも書いたが、平面駆動と静電型のヘッドホンばかり買っているぼくにとって、久しぶりのダイナミック型のヘッドホンになる。

ダイナミック型のヘッドホンで気にかかるのは、高域に感じる歪みのような違和感だ。理由ははっきり分からない。もしかしたらぼくの耳のせいかもしれない。高域にエッジが立ちすぎるというか、歪んでいるように感じる機種が大半なのだ。


平面駆動や静電型では使用機器のノイズ対策さえすれば問題にならないので、相性のようなものなのかもしれない。


それなりの数のヘッドホンを試聴しているが、ダイナミック型についてこの違和感は、ほとんどの機種で感じられる。
もしかすると、試聴環境のせいかもしれない。家の環境なら、と考えないこともない。しかし、違和感を感じるものを購入する冒険は、する気にならないの。
個人的に、試聴してこれならいける、と感じたダイナミック型のヘッドホンは、ゼンハイザーのHD800S、HD820S、オーディオテクニカのADX5000くらいか。

 

さあ。手元にきたこのZMF AUTEURを頭にかぶる。装着感はすばらしい。側圧も適正で耳を完全に覆う大型、肉厚のイヤーパッドが気持ちいい。ケーブルをアンプに接続し、音楽を再生、ボリュームを上げる。
歪むな、歪むな。祈るようにつぶやく。
音が出た。ひどい音が聞こえた。
具体的には、まったくメリハリがない、ひとことで表現すると「眠い音」だ。
情報量が少なく、音を解像できない。
中古購入だが、もしかすると、もうかなり長い間使われてなかったのかもしれない。
ただ、心配していた高域の歪みのようなエッジは感じられない。
とりあえず、一日中鳴らしっぱなしにした。
年末休みだ。音楽三昧もいい。
10時間くらい使ったところで音が変わった。
メリハリが出て、奥行きも出る。解像度も高いが繊細で柔らかい。
聞き疲れしなさそうな音なのに高分解能という、ありそうでない両立をしているようだ。

音色も、楽器それぞれの質感を色とりどりに感じられる。

木製のハウジングだけれども、あまりそれを意識させない、うまい設計のようだ。
音場についてもそれなりの広さを感じる。
面白いのは音場の形だ。
通常音場は、自分を中心に据え、音が自分の周りを取り囲むように広がっているような気がする。
AUTEURの音場は、周りを取り囲むようなというより、球形に感じるのだ。不思議な感覚だ。今までに感じたことのない感覚と言っていいだろう。
これは多分字面で説明してもなかなか分かっていただけないだろう。もどかしいが、仕方ない。
実際に聞いてみるだけの価値はあると思う。
まあ、試聴できるところもあまりないだろうが。

 

AUTEURは音に関しての気に入り具合では、前回の記事で常用していると書いた、ORIGINAL VOICE 972proと同じくらい気に入っている。
さらに加えてAUTEURは、ハウジングの仕上げが格別で、実際に手に取ると写真などでみるよりも美しく感じてニヤけてしまう。そんな所有感もいい。
では、なぜ常用は972proなのだろうか。
聞いた話ではあるが、海外製のヘッドホンではしばしばあることらしい。このAUTEUR、本体から香水のような激しい香りが漂っているのだ。中古であるにも関わらずだ。はじめぼくは、思わず自分の鼻を疑った。確信したときには唖然とした。
そこに気付いてしまうと、正直、それだけはいただけないと思ってしまうのだ。

ORIGINAL VOICE 972PRO。勇気を出して購入してよかった。

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ORIGINAL VOICE 972PROの感想を残しておきたいと思う。

まず、デザインとビルドクオリティについて。
ハウジングは木製でグリルは金属製、ヘッドバンドのアーチは扇形の金属製に革のハンモック。形状含め、ぶっちゃけHIFIMANのHE1000系統に似ていると思う。
これで音が悪ければただのデッドコピー、まがいもの、で終わり。ちゃんちゃん。なのだが、個人的にはこの、音がかなり気にいった。

音出し後すぐは解像度が高く情報量が多い、どちらかというと音像型に感じた。
ただ、平面振動板なのに音が若干遅く感じられる。
具体的な印象として、音の出に、かすかなタメがある気がした。
平面振動板のヘッドホンは、好きなので、安価なものから高価なものまで、かなりの機種を聞いたが、どちらかというとスピード感に富んでいた。
こんな印象を持ったのは初めてのことだ。

まあ、値段なりの音と言ってしまえばそれまで。
この音でも、前述のように解像度、情報量は申し分ない。付け加えて音像がドッシリとして実在感がすごい。
大きなナタで振りかぶって切ったような音と言ったら想像いただけるだろうか。この個性は無二のものかもしれない。

ただ、前述のタメのようなスピード感のなさから、どうしようか、エージングしてもこのままだったら手放すか。本気で考えたりもした。

このヘッドホンを手に入れ、我慢して聞き続けて3日ほど経ったろうか。
タメを感じなくなった。
そうなると、このヘッドホンの個性がすべてプラスに働く。
重いナタでぶった切るような音が、切れ味のよい日本刀のような音に変わった。
手持ちのヘッドホンの中で、SONOMAに次ぐほどの情報量と解像度に感じる。

特筆すべきは低域だ。低域の実在感と解像度は今まで聞いたヘッドホンのなかでナンバーワンなのではないだろうか。

 

このヘッドホンの美点はまだある。
装着感が最高に好みだ。側圧とイヤーパッド位置が適正なのだろうか。
今まで、これ以上に装着して楽なヘッドホンはなかった。
公称480gと、手持ちの中では最重量、一般的に見ても重いほうだろう。
それなのに重さをほとんど感じない。

趣味の世界で、コストパフォーマンスなんざは言いたくはない。
しかしこの価格で、このクオリティの音が手に入るのなら、安いと言いたくもなる。

音がよくてつけ心地もよい。
個人的に、最近はこのヘッドホンがメインなのだ。