Headphone Junky

歴だけはそこそこあるホムシアオーマニの偏ったお話

次の一手

さて、次の一手をどうするか。
こんな風に考えるようになったらオーディオ趣味も末期だ。
いま出ている音に、特に不満があるわけでもないのにアップグレードを考えるのだから手に負えない。
年末からしばらく、仕事で身動きの取れない状態が続いていた。
なにかご褒美じゃあないけれど、趣味のためにはたらいているのだから、なにか買ってもよいだろう。
試聴に行く時間もないので、ネット検索して、レビューを読んだり、恥ずかしげもなくフォローしているだけの、自分が興味がある機器の所有者さまがたにDMを送ったり。
ええ、もうなんなら聞かずに買ってしまうことよ、と開き直り、機器の選定にいそしんでいた。予算は40万円前後まで。
候補は、

MEZE EMPYREAN
MEZE ELITE
STAX SR-009
STAX SR-009S
FINAL D8000
HIFIMAN HE1000SE
HIFIMAN SHANGRI-RA Jr(ヘッドホンのみ)

あたりだろうか。
その前に手持ちを整理しておこう。

静電型が、
HIFIMAN JADE2
SONOMA MODEL ONE

平面型が、
LSA HP-1
ORIGINAL VOICE 972PRO
MR.SPEAKERS ETHER C

いわゆるダイナミック型は、
ZMF AUTEUR

以上の6機種だ。
最近、個人的には音場に興味が行っている。
特に頭の周りを包囲するように前後左右に音が定位するのが楽しいと感じている。

手持ちの6機種のなかで、それがうまいのはJADE2とHP-1だ。

JADE2は手持ちの中では安価で音も独特の脚色はあるが、軽くかけ心地が良い。包囲感も抜群なため、出番は案外多い。
HP-1のほうは、木製のハウジングのせいか、音が少し暗く出番は少ない。
包囲感は素晴らしいのだがそこがなぁ、と聞くたびに思っていた。
それがリケーブルで一皮剥けたのだ。
といっても大したことではない。KENNELTONE系(手持ちのHP-1も含む)と、ZMF系(手持ちはAUTEUR)はケーブルの端子が共通なのだが、そのケーブルを、それぞれ別の機種に接続してみることにしただけのことだ。

それだけでHP-1が一皮剥けた。
暗く、木質の単調に感じられる音色が色彩感豊かに包囲してくれるようになった。
一方、HP-1のケーブルを接続したAUTEURも、少し音像のフォーカスがボケるような気はするが、柔らかい音で包み込むように変化した。
ケーブル交換で、音色が単調になるのを危惧していたが、AUTEURの場合、そこは大丈夫なようだ。

手持ちのヘッドホンでこれだけ遊べるのだから、オーディオは楽しい。

閑話休題
ヘッドホン購入の話に戻ろう。
仕事が少し落ち着き、なんとか時間が取れるかなぁと思い出したころ、やっと蔓延防止が明けた。
ぼくは試聴に行くことにした。
ターゲットは上記の機種たちだ。どの機種もそれなりの価格だ。どの機種も評判がよく、試聴せずに買ってもいいのかもしれないが、試聴できるのならしたほうがいいだろう。
いつも試聴に行く某店で聞けたのは3機種、EMPYREAN、ELITE、D8000だ。
まずEMPYREANを聞く。
EMPYREANは、ELITEが出てフラッグシップではなくなった。それが理由か、中古も豊富で値頃感が出てきている。今回試聴できた機種のなかでは一番安価に入手できるだろう。

そんなことを思いながら頭にかぶる。
まず装着感がよい。これなら疲れずに長時間聞けるだろう。
肝心の音だ。
音色の色数は非常に多く、少し暖色に寄っている気はするが心地よい。音場も広く、音像の定位もよい。
ぼくはカリカリの輪郭のついた音が苦手だが、そのあたりも秀逸で、情報量や解像度もそれなりにあるのに、まったくキツくは感じない。
低域は少し曖昧に聞こえる気もするが、低域はアンプ次第なところもある。
個人的に低域は、どちらかというと重視していないこともあり、気にはならないだろう。
ふむ、いいな。
ちょうどこの店にも中古品が出ている。これで済んだら安く上がる。

次はEMPYREANの上位機種、ELITEだ。この機種なら、まだ発売されたばかりということで買うなら新品しかない。
被る。
EMPYREANと同一メーカーのせいか装着感の差は、あまり感じない。
さて音だ。
EMPYREANと傾向は似ているが、クオリティがまったく違う。
音場が広く音像の定位が良いところは同じだが、その音像のフォーカスがまったく違って聞こえる。音が手でつかめそうだ。
ELITEと比較するとEMPYREANの音像はすこしボケて肥大しているように感じてしまう。
ELITEで聞くボーカルの口元は小さく、楽器もそれぞれの場所にカッチリと整列しているようだ。
EMPYREANからの変化が一番大きいのが低域だ。量感は減るが、曖昧だった音階が解像度を伴って正確に出ている気がする。
EMPYREANより、全域でだいぶいい。

ただ、値段が値段だ。中古のEMPYREANと比較すると新品のELITEは約2倍の価格だ。
完全な予算オーバー、中古が出るのを気長に待つことになる。
聞かなけりゃよかった。

最後にD8000だ。
まず被る前に手に持つだけでその手に重量を感じる。重い。そしてデザインがゴツい。個人的には嫌いではないが。
被る。
むう、重い。長く聞いてると首がやられそうだ。
とりあえず音だ、音。この重さで音が悪かったら無いわ。
いや、D8000すごい。
ネットに落ちてるD8000のレビューでは、音場が狭いという人と、広いという人が混在しているが、これは標準的だろう。
解像度、情報量ともに今まで聞いたことないレベルで高い。そしてかなりカッチリと音像が決まる。そしてその音像が軽くないのだ。すべての音に重量が乗ってきている気がする。
にも関わらず、平面駆動のせいか当たりがしなやかで、耳に痛くない。
低域に関しては巷の評判通り、多い。
多いのだが、なぜだろう、その多い低域が邪魔に感じない。キチンと解像度を伴っているからだろうか。理由はハッキリとは分からないが、これはハマる。
D8000なら中古がある。EMPYREANより少し高いくらいか。充分予算内におさまる。
重量のせいで装着感に難はあるが、聞いた3機種のなかでは一番音は好みだ。

ただ、ここまで試聴してきたが、少し違和感も感じてきた。
どうも、この3機種は平面駆動型でいわゆる音のスピード感は速いも言われている方式だ。
家で聞いているJADE2の方が、音の出方だけで言えばさらに速く、自然に聞こえる気がする。
もちろん、情報量、解像度、音色の豊富さはJADE2とは比べ物にならないくらい3機種とも良いのだが。

迷った末に、この日は決めずに家に帰った。
冷静な頭で判断しようと、家でもう一度手持ちを聞く。
やはり、試聴してきた3機種ではJADE2のスピード感は出ないようだ。
SONOMAも遜色ない。
手持ちの平面駆動とダイナミック型が特に遅いとは感じないが、もしかするとこのスピード感は静電型特有のものなのかもしれない。

そして驚いたことに、ケーブルを交換したHP-1の音は、低音の速度こそ静電型には劣るものの、情報量、解像度、定位感など、全体的にはD8000に迫っているように聞こえる。
もちろん、自宅ではアンプやDAC、それらに接続に使用するケーブルやアースに至るまで自分好みに追い込んでいるので、店頭で聞いただけのD8000にとってはフェアではないだろう。
しかし、苦労して貯めた数十万を払って購入する気がなくなってしまったのは事実だ。

さあ、なら、どうする。静電型ならSTAXか。
HIFIMANのshangri-la jrもあるが、アンプセットだと約100万円。
100万円あればプロジェクター買い換えるわ。
というのが正直な気持ちだ。
現実的に考えるならSTAX一択か。新フラッグシップが出たせいか、この間まで最上級機だったSR-009やSR-009Sの中古品をネットショップやオークションで見ることがかなり多く、これらならアンプセットでも予算内で選択肢はいろいろある。
そういえば、友人の友人、まあ顔は見たことがあるくらいの知人が、STAXのSR-009を持っていると聞いたことがある。
友人に連絡をつけると、中立ちをしてくれるそうだ。ありがたい。

で、結局彼がその知人から、SR-009をアンプとセットで借りてきてくれた。
アンプはSRM-007TA真空管式のハイグレードタイプのものだ。
接続し、電源を入れてしばらく待ち、音出し。
以前ヨドバシで試聴した時の思い出が頭によぎる。
個人的には柔らかい音は好きなのだが今聞いている音は柔らかいが滑らかさに欠けるように聞こえる。
低域から高域まで、音のスピード感に関してはやはり平面駆動型よりもかなり速く感じる。
そして音が揃っている気がする。
自宅で聞いたL700とSRM-727Aよりも音場は広く、押し付けがましさもなく、そのあたりは好印象だ。
悩みながら1時間ほど聞いていただろうか。
真空管式のアンプということで温まれば印象が変わるか、とも思っていたがこの時点では多少良くなった程度。
普段、帰宅、夕食、入浴後に聞く時間を考えると、これ以上暖気に時間が掛かるのでは運用はむずかしいだろう。
ただ、L700の印象からして、アンプを換えればまだ好みになる可能性は充分にあるとも思う。
やはり静電型か。
とりあえずぼくは、手に持ったスマホの検索窓に、「STAX SR-009 中古」と打ち込んだ。

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