Headphone Junky

歴だけはそこそこあるホムシアオーマニの偏ったお話

STAX SR-009S レビューの巻

f:id:koichirokoichiro:20220407215802j:image

前回の記事の結果、結局STAXを買うことにした。
音の好みが似ている知人が、最近STAXのSR-009を購入、いたく満足されていることにも背中を押された。

SR-009の中古相場を調べると、21万〜23万円が、標準的な相場だろうか。
ヤフオクで保証なし、ショップが販売するものでも程度が悪いものは20万を切ることもあるようだが、できればそれなりに程度の良いものが欲しい。
安くとも、程度が悪いものに当たるとテンションは上がらないように思う。まあ、当たり前かもしれないが。
個人的には、入手困難なもので完動品なら、程度が多少悪くても購入対象になる。良くも悪くもSR-009は球数が多い。ましてや製造年度も幅広く、外観がキレイでも古いものも少なくない。あまりに安いものに飛びつくのは正直怖い。

そんなこんなを考えながらネットショップをさまよっていると、スプリングセールでSR-009の後継機種、SR-009Sの中古品が特価になっているお店があるのを発見した。
SR-009Sだが、Sが付くだけで、もともとの中古価格は30万円近い。
SR-009からSR-009Sの間で、定価が約10万円上がったのに伴って、中古価格の相場も、S付きの場合、30万円前後と上がっているのだ。
その個体は、その相場よりも5万円は安い。
ぼくは、STAXを買うならアンプもセットと考えていたので、予算的に009S購入は想定していなかった。
これならなんとかなりそうだ。
009Sなら、発売されたのが2018年だ。経年劣化も比較的安心できるだろう。
もちろん、ショップ購入で、ジャンク品でもない。半年の保証も付く。
迷いがないと言えば嘘になるが、ぼくが見つけたのが丁度セール最終日。これも運命かと思い、購入することにした。

そうなると次に問題になるのは、そのSR-009Sを駆動するためのアンプだ。STAXではドライバーと呼ばれる。
通常のヘッドホン端子ではSTAXのヘッドホンは動作しない。専用のアンプ=ドライバーと接続する必要がある。
以前SR-L700を使っていたときのドライバーはすでに手元にない。
手持ちのHIFIMAN JADE2のアンプの規格はSTAXと共通だから、とりあえず仮で使うには使えるが、SR-009Sは JADE2よりも格上だろう。ドライバーもグレードアップしたい。
予算を考えると、中古のSRM-007TAか、SRM-727Aがよいだろうか。
ただ、SRM-007TAは試聴したことがあるが個人的にはあまり好みではない。
SRM-727Aは一度手放したので、同じものをもう一度購入するのはしゃくにさわる。
つらつらと考えながらドライバーの評判を検索する。
ひとつのサイトで、スクロールするぼくの手が止まった。
それはSTAX純正のドライバーから、社外ドライバーに買い替えたかたのレビュー記事だった。
そうか、社外品という手があったか。
もちろんSTAXのドライバーに、社外品があるのは知っていた。ぼくが持っているJADE2のアンプもそのひとつだろう。有名なところではブルーハワイ(BHSE)がある。ただ、海外のメーカーのものはおしなべて高い。
そちらのサイトのかたが購入されていたのは国産で、イシノラボというガレージメーカー製だった。

イシノラボについては以前から興味があった。
現在気に入って使っているプリ、パワーの製作者とイシノラボさんは懇意で、昔は設計のみ現在の製作者さんが行い、実際の製作は、イシノラボに委託していたそうだ。
それなら信頼できそうだ。
ぼくはイシノラボに、SR-009S用のドライバーの製作をおねがいすることにした。
すぐに返事があった。
ドライバーは、受注生産ということで、納期がひと月以上掛かるそうだ。
SR-009Sを発注する前に発注したが、この記事を書いている今もまだ完成していない。

話を、中古購入したSTAX SR-009Sに戻そう。

到着したSR-009Sの外観は、美品とまでは言わないが、それなりに満足のゆくものだった。革製のヘッドバンドに経年のための皺があるが、ハウジングは綺麗だ。イヤーパッドも艶こそ減退しているが、個人的には所有欲が減退するほどではない。

とりあえず手持ちのJADE2のアンプに接続して聞いてみる。
出てきた一音目でやられた。
良い。
引き込まれるように聞き続けることになった。
美音である。
個人的にはこの出音がハイファイとは言いがたい。この音は、ある種の意図を持って作り込まれた音なのではないだろうか。そうでなければ出ない音な気がする。
しかしだ。
次から次へと曲を掛け替え聞き続ける。冷静に聞くことを許されない。
ぼくはひさびさにそんな経験をしたような気がする。

2、3日、音は良くなり続けた。

音についてすこし書こう。
同じ静電型と言っても、HIFIMAN JADE2や SONOMA MODEL ONEとはまったく違う音に聞こえる。
まあ、静電型特有の、音の揃いや、低域のスピード感は3機種ともに共通する美点と言えるのかもしれない。それを踏まえた上でそれぞれについて書いてみたい。

JADE2は明るくさわやかな音と形容すれば伝わるだろうか。音の定位は四方八方に距離を取って定位する。このぐるりと音に包囲される感覚が楽しい。
レンジは他の2機種に比べて狭いが、聴かせ方がうまいのか個人的にはそんなに気にならない。
単体で聞いている間は気にならないが、他機種を聞いた直後に聞くと音色の数が少なく、若干単調に聞こえる。
解像度や情報量もそれなりにあるのだろうが、この音色の数のせいで好き嫌いは分かれそうだ。

MODEL ONEはひと言で言い表すとすればハイファイ調、だろうか。
JADE2のように全方位に定位する印象はあまりないが、音の位置を確認しようと意識を向けると全ての音がきちんと定位しているように聞こえる。
制動がよく、音像がコンパクトなことが幸いしているのか、音は近いが見通しは良い。
音色の数は多く、楽器それぞれの質感を描けているように思う。
声についても滑らかで、男声女声、いろんな人、それぞれの声質の描き分けもすばらしい。

特筆すべきは低音だ。
量感は控えめだが、低音の実音と、その響きまで分離して聞こえる。
やはり、手持ちの機種の中で、一番正しい音を聞かせてくれるのはMODEL ONEなのかもしれない。
SR-009Sを持ってしてもその部分に関しては確信を強くした。

それならSR-009Sを入れた意味は無いのか。と、問われるかもしれない。
とんでもない。
現在、一番出番が多いのがSR-009Sだ。
高音から低音までレンジ感にすぐれ、音像はMODEL ONEと比べると若干大きいが、楽器までの距離や前後左右の移動感もうまく表現してくれる。
制動に関しては引き締まっているとは言いにくいが、反対にそこが、イヤミにならないくらいの響きを付加し、聞き心地の良さにつなげているように思う。

まあ、分析的に書こうとしてはみたが、そんなことはどうでもいい。
何はともあれ、寝る間も惜しんでヘッドホンにかじりつくなんてことは、数年ぶりのことなのだから。