Headphone Junky

歴だけはそこそこあるホムシアオーマニの偏ったお話

いまさらOPPO、いまさらPM-2

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もういまさら感はありますが、中古でOPPOのPM-2を購入しましたのでレビューしたいと思います。

このPM-2は格安で入手しました。OPPOがコンシューマーオーディオから手を引いて数年経ち、修理対応もできないことからでしょう。ヘッドバンドやイヤーパッドにやぶれこそないものの、正直なところ販売用の写真での見た目も悪く、ネットで発見してから一日悩みました。

ただ、価格がそれなりに安いこと、イヤーパッドなどはその機種自身を気に入れば、本革に張り替えて使えばいいことから、思い切って購入することにしました。なにせ、本革のイヤーパッドに交換しても新品時の価格の、半額にも届きません。

このOPPOの平面駆動のヘッドホンPM-2は、発売当時フラッグシップのPM-1と、同一の振動板を使い、コストダウンをはかったモデルとのふれ込みでした。そのときはまだヘッドホン沼に足を踏み込んでなかったので試聴もせず、OPPOからなんかヘッドホンが出たわ、くらいの興味しかありませんでした。

その後、Ether Cで平面駆動ヘッドホンの素晴らしさにハマり、AUDEZE EL-8、FOSTEX T60RP(売却)、HIFIMAN DEVAと平面駆動ヘッドホンを買い集める中で、常々これらのOPPOの平面駆動ヘッドホンも聞いてみたいと思っていました。

本当ならフラッグシップのPM-1が欲しいところなんですが、購入されたかたが手放さないのか、中古市場になかなか出回らない上、たまに出ても新品かと思うような値段がついています。

PM-2はさらに販売数は少ないはずですが、今回かなり安価に入手できるチャンスだったので、PM-1はあきらめて、こちらを購入することにしました。

さて、実際に届いた印象です。

中古販売時に写真で見たとおり、ヘッドバンドなどに傷も多く、パッド類もヘタレたりやぶれたりこそしてないもののかなり使用感があります。デザイン自体は可もなく不可もなくといったところでしょうか。折り畳みもできるオーソドックスなデザインだと思いますが、当時十万円程度で販売されていたにしては主張がないような気がします。

特に一般的に鳴らしにくいと言われる平面駆動のヘッドホンです。ましてや開放型ということで、自室など据え置き環境で使うことになることが多いと思います。個人的には折り畳めなくても、もう少しマニアに訴求するデザインだったらよかったのになと思いました。

ただ、シンプルなデザインは軽量化には有利なようで、385gと平面駆動のヘッドホンの中ではかなり軽い部類のようです。

さて、音出し後の感想です。このOPPOのPM-2は、どうもエージングというか、慣らしに時間がかかるタイプのようです。

今まで使ったヘッドホンは、鳴らしはじめ直後としばらく経ってからで、そこまで音が変化するヘッドホンはなかったように思うのですが、このPM-2はあきらかに変わりました。

鳴らしはじめた当初は平面駆動の長所がまったく感じられず、低音はまあまあ出るものの高音の伸びがなく、平面駆動の特徴であるだろう空気感も、まったく感じられませんでした。

また開放型のはずなのにこもって聞こえます。もしかしたら間違って密閉型のPM-3が届いたのかと思い、何度も本体を耳から外して確認したほどです。

正直失敗した、と思いました。1時間ほど聞いて、やっとそれなりに上も伸びてきましたが、まだもの足りません。何度も書きますが当時十万円のヘッドホンとはとても思えない音です。

さて翌日、ひと晩通電しておいてから聞き始めると、かなり音が変わって聞こえるようになりました。

高域も伸び、低域の反応もよくなったようです。

ほっと胸を撫でおろし、ここからはほかのヘッドホンと比較していきたいと思います。

比較対象は、ぼくが常用している同じ平面駆動のヘッドホン、Mr.SpeakersのEther C(密閉型)、HIFIMANの DEVA(開放型)です。

特にPM-2は開放型ということもあり、DEVAと並行して使う価値があるかどうかということが個人的な1番の興味事項です。

比較しはじめて、すぐにわかったことは、これは開放型と言ってもDEVAの置き換えにはならないということです。

DEVAをはじめ、HIFIMANの平面駆動、開放型のヘッドホンは異常に音抜けがよく、振動板が軽く動く印象があります。これが音の反応の良さにつながって、そこが個人的には平面駆動の好きな部分でもあります。

推測ですが、これはHIFIMANのモデルの中でも、新しいモデルほど振動板が薄いことと無関係ではないでしょう。

HIFIMANの現行機種は、DEVA購入時にANNANDAまで値段順に比較試聴しました。

ANNANDAとDEVAについては魅力を感じたのですが、それ以外の機種についてはもうひとつ踏み込めませんでした。あとで確認するとそのとき試聴したモデルの中で、それら2機種だけがHIFIMANのヘッドホンの中でももっとも薄い振動板を使っているようです。

この薄膜振動板の反応の速さと、あのオモチャのような簡素なグリルのおかげで、あの驚異的なスピード感のある音が出ているのだろうかと想像してしまいます。

そういう意味で言うと、今回購入したOPPOのPM-2は、振動板の厚さはわかりませんが、開放型のグリルもかなりしっかりした作りで、あきらかにDEVAほどの開放感も、反応の速さもないようです。個人的には、開放型ヘッドホンとしての魅力という意味だけを考えると、DEVAのほうがよいように感じます。

ただ、PM-2は、開放型とか密閉型とか関係なくヘッドホントータルで考えると、かなり中庸ないい音なのかなと感じました。

DEVAは、前述した長所は、なかなかほかのメーカーではかなえられない部分かなとは思うのですが、やはり価格が安いせいか、音の質感的な部分で若干ではありますが荒く感じることがあります。

比較したソースについて少しだけ触れておきます。

ぼくはオーディオだけでなくビジュアルもやりますので最近はYouTubeもソースとしてよく使います。コロナ禍でライブやMV撮影が難しいようで、いろんなアーティストのかたがアーティスト同士、オンライン上でコラボした作品をアップされていますが、今回は特に下記のソースでチェックしました。

こちらの動画では、エヴァネッセンスのボーカル、エイミーリーが参加しています。彼女の声は、再生する環境によって、かなり声質が違って聞こえるようです。

https://youtu.be/t2N99PZpQ_A

DEVAで聞く彼女の声は、イメージ通りというか、伸びはあるものの若干神経質さをともなうもので、重みも少し足りないようです。反面解像度感はすこぶる高く、全ての音がパーツごとに分解されている印象です。音の距離感も開放型の典型と言ってもよいくらい耳から離れて聞こえます。

また音の奥行きや定位感、音ひとつひとつの階層感もしっかりあり、きっとぼくは、手持ちのヘッドホンがこのヘッドホンひとつだけになっても、不満はほとんどないだろうと思います。

正直個人的にはDEVAは、物としての質感は別にして、音に関しては値段からは考えられないくらいの高音質だと思います。

さてOPPOのPM-2にケーブルを差し替えます。

一聴して違うのは高域側の空気感です。空気感が一気に減りました。ある程度鳴らし込んではいましたが、やはりDEVAには敵わないようです。いわゆるヌケと呼ばれる音の開放感や、分離感もDEVAのほうが優れているようです。またヘッドホンの形状から予想できるように、音の距離感も、すぐそこでなっているようなかなり近い印象に聞こえます。

ただ、DEVAが苦手としている、音の重みや質感、滑らかさは、比較にならないくらいPM-2が良く、ソースのエイミーリーの声が浮き上がり滑らかです。バイオリンの音も上品に聞こえます。

そして音の定位感が素晴らしい。距離感は近いものの、まるで全周囲をスピーカーに囲まれているようなデコボコのない定位感が得られ、出音の場所を把握するのが容易に感じられます。素晴らしいです。

次にEther Cと比較してみましょう。まず違うのがスケール感です。Ether Cは密閉型ということで、ハウジングの鳴りも音づくりに活かしているのかもしれませんが、かなり響きが多く、壮大に聞こえます。音のスピード感という意味でもETHER Cは、DEVAと同等レベルだと思います。

それだけにとどまらず、重層的な音の階層構造と、上品な滑らかさが同居しているように感じます。音の距離感も素晴らしく、響きは伴うものの、密閉型でありながらすぐそこで音が鳴っている感じには聞こえないと思います。

やはり価格なりの差はあるということなのでしょう。PM-2にとってはかなり分が悪かったようです。

このあたりは、定価ベースで半値以下ということなので、もともとのターゲットが異なるということなのかもしれません。

ただし、音の滑らかさの点では、Ether CはPM-2に一歩劣るように感じます。そして音の階層感はという意味ではEther Cのほうが良く感じるものの、全周囲的な定位感はPM-2のほうが良いように感じます。なんというか、PM-2の定位は音源が近く感じながらも、ゆるぎないように思うのです。

もともと平面駆動のヘッドホンの定位のよさは今までも感じていたのですが、そのなかでもPM-2はひときわ優れているように思います。

あとひとつ、特筆すべきは歪み感のなさです。ぼくの視聴環境は、特に歪みのなさを優先して構築しているつもりなのですが、ほか2機種のヘッドホンよりも高域の歪みに関しては少ないようで、かなり音量を上げても耳に刺さったりすることがありませんでした。

ただこのあたりは、高域の空気感とのトレードオフかもしれませんので、注意が必要かもしれません。

というわけで、OPPOのPM-2のこれからの使いみちです。

購入する前には、メインをおびやかす存在になれば、という思いもあるにはあったのですが、メインはEther C続投。開放型枠も、開放型らしく鳴るDEVAがあります。サブのEL-8と入れ替えるのがいいのかもしれません。

ただ、声やバイオリンの音色が滑らかに聞こえるというのは個人的にはかなりのツボですので、案外出番は多くなる気がしています。

OPPOというと、ぼくは良いパーツを集めて良い設計をする、箱モノのAV機器を作るメーカーというイメージを持っていました。そんなメーカーが、ヘッドホンという特殊な製品を作るにあたって、「個性的な良い音」の製品でなく、これだけ「ふつうに良い音」の製品を作ったというのは賞賛に値すると思います。

結局OPPOはその後すぐにAV機器から撤退。次作が作られる可能性は今のところないのですが、正直、その先を見てみたかったなと残念に思います。