Headphone Junky

歴だけはそこそこあるホムシアオーマニの偏ったお話

分解能の鬼!HIFIMAN Shangri-la jr!!

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時系列で書くならウエストリバーで作っていただいた静電型ヘッドホンアダプター、ES-1のことを書くべきなのかもしれないが、その後、すぐに到着した静電型ヘッドホン、HIFIMANのShangri-la jrのレビューを先にしておこうと思う。

購入した経緯から書く。
一年と少し前、ぼくはHIFIMANのJADE2を新品購入した。試聴して購入したわけだ。いまでも気に入っている。
このJADE2がぼくにとってはじめての静電型ヘッドホンだ。通常のダイナミック型のヘッドホンから考えるといささか光学に感じるが、静電型ヘッドホンというカテゴリーのなかJADE2はエントリークラスとも考えられる。
そのエントリークラスでもこれだけの音を出してくれる静電型。ぼくはさらに上のクラスを聞いてみたくなった。

そこからはこのブログにも書いたとおり。
STAXのSR-L700とSRM-727A、SR-009S、SR-007A。アンプはイシノラボとKGSSHV CARBONを買った。ほんの一年足らずのできごとである。
STAXのヘッドホンはそれぞれに素晴らしい音だ。音色に関して言えばいま所持している2機種、SR-009SとSR-007Aで満足している。
ではなぜ追加購入するにせよSTAXの上位、SR-X9000にしなかったのか。
音色ではなく、サウンドステージ。音場なのである。
HIFIMANのヘッドホンをたくさん使ったことがあるわけではないが、今まで使った3機種、DEVA、ANANDA、JADE2の音場は、頭の全周囲に距離を置いて定位するように聞こえる。
それを期待してSTAXの上位機種を使ってみた。
情報量は上がり解像度は高く音色のツヤもすばらしい。
音場に関しては、奥行き方向、前後感についてはすばらしいのだが、横方向の距離感については若干曖昧に聞こえるのだ。

もしかするとSTAXのSR-X9000の音場が好みに合うかもしれない。それも考えた。
それに静電型で今の旬なら、AUDEZEのCRBNもある。
なかなか試聴に行く余裕もないいまの自分の状況で、ネットのレビューを読む限り、ぼくが好む音場については、どうもHIFIMANのヘッドホン独特のものなのだろうと見当をつけた。

売店に問い合わせしてみた。
国内在庫がラスト一点だと言う。その言葉はぼくの背中を押した。

Shangri-la jrがお盆明けて一週間後に到着した。ぼくはいつになく興奮していた。
同価格帯のヘッドホンとしてはSTAXのSR-009Sをすでに所持している。
SR-009Sは中古購入だ。購入時にそこまでの高揚感はなかったと思う。
ただし中古品の場合、販売店でチェック済みであることである意味安心して購入できる。新品の場合は未開封で送られてくる。
ぼくは新品の方が安心なように思っていた時期もある。
同じHIFIMANのJADE2の新品購入の際、不具合でアンプともども交換の憂き目にあった。
左右の音量が違ったのだ。こうなるとHIFIMANご自慢の音場の立体感は全くでない。
新品だからといってなかなか安心できないなと、身をもって体験したのだ。
ましてや今回のShangri-la jrは国内在庫がもうない。
なにか不具合があっても交換というわけにはいかない。慎重に梱包から取り出し静電型ヘッドホン用の5ピンをアンプに差し込んだ。
とりあえずは同じメーカーのアンプのほうが安心だろう。ぼくはJADE2のアンプで聞き始めた。

心配は杞憂だった。
左右の音量差もなく、格下のJADE2のアンプでもすばらしい音だ。
抜群に情報量が多く解像度が高い。描く線は極限まで細く太くツヤのある音が好きと言われる方には不向きだろう。
ぼくの個人的な好みは、情報量優先、分離優先のところがある。細いがキツくは感じないのでかなりツボにハマった音である。

特筆すべきは定位感だろう。
いわゆる音場が広く前後左右上下と、もしかすると誇張感を感じる人もいるだろうが、かなりピンポイントで定位する。
音源までの距離も広々として、俯瞰して見る状態に近い気がする。
ボーカルがそばで歌って欲しいと言う旨にはむかないのかもしれない。
このあたりも、同じHIFIMANのJADE2に似ていると言えなくもない。JADE2から正当進化している場所なのだろう。
JADE2と比較すると、個人的には負けている部分はまったく感じない。
反対にらShangri-la jrを聞いてからJADE2を聞くと、今まで鮮烈に感じていたJADE2の音が、何枚もベールをかぶった音に聞こえるようになった。

それでは、静電型ヘッドホンの同クラス、STAXのSR-009Sとの比較はどうだろうか。
情報量は同等、解像度はShangri-la jrのほうが高いように聞こえる。
これはメーカーによる音作りのせいだろう。たしかに解像度はShangri-la jrのほうが高く聞こえるのだがその反面、余韻が少なくドライだ。
ボーカルのツヤはSR-009Sの独壇場と言える。
音作りの違いは音場の違いにもあらわれている。
移動感は2機種ともすばらしいのだが、音が空間に点在して前後左右上下にキレイに間隔を置いてピンポイントに定位するさまは、やはりHIFIMANのヘッドホンならではなのだろう。

SR-009Sは音場自体が狭いとは感じないが、前後方向に大きく、左右方向は若干狭い楕円形に感じる。ボーカルも近い。音の定位も空間にピンポイントとはいかないようだ。

個人的には、Shangri-la jrは音楽を非常に客観的に聞かせてくれる気がする。いわば突き放したクールな音。
SR-009Sは聞かせどころをうまく提示してくれ、音楽に引き込むような音と言えそうだ。

最後にビルドクオリティとつけ心地についても触れておこう。
HIFIMANのヘッドホンについては、音はいいけど作りがね、といった意見が多いように思う。
ぼく個人としては、HIFIMAN製品に特に悪い印象はない。
デザインなんかを含めるとSTAXなんかもどっこいどっこいに感じる。
SR-X9000はまだ実物を見たことがないが、ネットで見る限りずいぶん垢抜けたなといった印象。
SR-009SやSR-007Aのデザインは日本的と言うか若干の古さを感じなくもない。
このあたり、デザインはShangri-la jrは新しさを感じる。
重量もSR-009S比で軽く、装着感も良い。個人的にヘッドバンドは、HIFIMANのこのタイプが1番気に入っている。
ネガティブな要素としては、工作精度の問題かヒンジがキシむような音を立てることがある。
あとは、イヤーパッドがメッシュタイプで本革でないことか。
これは音づくりの一環であるだろうから難しいだろうが、高級ヘッドホンにはやはり本革が合うと思う。本革の肌触りも好きなので少し残念だ。

まあヘッドホン単体で作りが定価約50万円のクオリティがあるかと言われるとどうだろう。その人その人の判断で、としか言いようはないが、STAX製品と比較して個人的には特に悪いようには思えない。
群雄割拠の高級ダイナミック型ヘッドホンと違い、静電型ヘッドホンの世界はニッチなので、外観に関してはぼくの感覚が麻痺しているのかもしれないが。
なんにせよ、他の機種を考えても音に関しては代わるものがない。手に入れることができ非常に満足している。